時間が解決できないこともある。
8.恋の終結(2)
哀とコナンが喧嘩したらしい。いつも二人きりでいるわけでもなかった彼らだが、それの影響でいつもの仲間で集まることが出来なくなったことが歩美にとって少々不満だ。
必然的に同じクラスのコナンと過ごす時間が多くなった。
「もうすぐクリスマスだね」
休憩時間でも机から動こうとしないコナンに明るく歩美が話題を振っても、その耳にはまるで入っておらず、「ああ」と生返事をしながら推理小説に視線を落としていて、歩美は嘆息する。歩美は気付いている。コナンの頭には本の内容も入っていない。
(哀ちゃんもあんなだし…)
数日前、教室に哀に行った哀の様子を思い出し、気持ちが沈んでいく。
コナンと哀がつき合っているらしい、という噂は中学校に入学してからすぐに耳に入って来た。当然近くで彼らを見ていても変わった素振りはなかったし(そもそも最初から変わっていたし)、それはデマだと分かったけれど。
(私がその噂の対象になりたかった)
小学六年生の時に衝動的に告白しようとして、想いを伝えることもさせてもらえなかったのに、そんなことを思った。
あっという間に二学期最終日を迎え、明日から冬休みだ。退屈な終業式であくびを噛み締める。
(このまま冬休みも五人で会えないのかな)
哀とコナンは相変わらず廊下ですれ違うことがあっても目すら合わせない。元太が五人で集まろうと集合をかけても、どちらかは必ず来ない。
このまま全員が同じ高校に行くわけではないのだ。いつまでも子供のままいられないのは分かっているけれど、先に高校を決めた親友にも焦燥感を抱く。
他に女友達がいなかったわけではないけれど、無鉄砲でやんちゃな子供時代を送った歩美にとって、五人でいる時間はスリル溢れてとても刺激的だった。
「コナン君」
終業式が終わった放課後、今日は五人でファストフードに行くこともない。落胆しながら歩美は教室に入ったコナンを呼び止めると、コナンはどこかやつれた表情で振り返った。
「哀ちゃんと仲直りしなよ」
お節介だと分かっていても、いい加減口を出さないわけには行かなかった。
「…そんな単純にはいかねーんだよ」
「単純じゃないって何」
力なくつぶやくコナンにむっとして歩美がいつもより低めの声で言うと、コナンは少し怯んだ目を向けた。
「哀ちゃんのことが気になっているくせに!」
自分で言った言葉に傷ついた。呆然と歩美を見つめるコナンを見て、唇を噛む。
(どうして分からないの)
昔から頭が切れて、事件に巻き込まれればその優れた推理力で犯人を割り出すことも簡単なくせに。
女心も分からなければ、自分自身をも見失うなんて。
なんだ、とどこかほっとする自分がいる。
(ただの、普通の人間みたい)
絶対的な存在感は、神様のように見えたのに。
今では同じ地面の上に立っていた。
「コナン君、私、コナン君が好き」
突然の言葉に、コナンの表情が固まった。それに気付かない振りをして、歩美はにっこりと笑った。
「終わらせてくれなかったのはコナン君だよ。終わらないってすごく辛いの。コナン君も知ってるでしょ」
誰のこととは言わないけれど、と歩美は心の中で呟いて、席に置いてある鞄をぎゅっと持って教室を出て、ひたすら走った。
胸が痛い。何年もの恋を自分で終わらせたのだから当然だった。
(だけどようやく終わったんだ)
涙は流さない。絶対に泣いてなんかやらない。
明日から冬休みでよかった。