彼らの秘密主義は今に始まったことではないけれど、それでもどこか疎外感を覚えた。
6.秘密の裏側(1)
やっぱりあいつら付き合っているのかもしれねぇ、と元太が言い出したのは、夏の終わりだった。
(そんなの今更だ)
二人の噂は二年前から存在している。火のないところに煙は立たないと光彦はどこかで思っていた。そして歩美の顔が頭をよぎる。
彼女は二人をどう思っているのだろう。
元太の言葉を聞いてから、光彦のコナンと哀への視線が何かを探るものへと変わった。当然コナンがその視線に気付かないわけがない。
「光彦、どうかしたか?」
工藤邸で五人でテスト勉強をしていると、大きなテーブルの向こう側からコナンが顔をあげて光彦を見た。その眼差しには嫌悪感は微塵も含まれていない。
はっきりとした顔立ちに、お洒落な黒縁眼鏡。その奥に輝く瞳。さらりと制服の白いシャツを着こなす姿は、同じ中学の生徒の中で誰よりも様になっている。
その隣を見れば、ウェーブがかった茶髪により強調された白い肌、少しきつめの二重まぶたがうまく中和された顔、美人としか言いようがない哀が、英語の長文読解を辞書も引かずに解いている。
(お似合いとしか言えない)
学校の生徒に冷やかされても動じない彼らは、確かに格好いい。だけどそこに一抹の寂しさを覚える。
「何でもないです」
誤魔化すように笑って、光彦は手元にある数学の問題集に視線を落とした。
季節は流れ、文化祭も終わり、気付けば道路も落ち葉で埋まる十一月となっていた。
とっくに衣替えを終えて、今ではマフラーが必要になる日もあるくらいだ。
コナンと哀の関係については聞けずじまいだった。受験も迫り、今では五人で会うのも週に一度あるかないかだったし、コナンと哀は別のクラスなので二人きりで会う様子も頻繁には見られなかった。家が隣同士なので時々一緒に登校する姿も見たが、それは小学生の頃から見た光景だし、やっぱり噂の真相は光彦には解けない。
こうして見れば、噂が立ったきっかけが不思議にも思う。昔から彼らはあんな雰囲気だった。
しかし、元太が夏の終わりに光彦にだけこっそりと打ち明けたのだ。
―――オレ、あいつらがキスしているのを見ちゃったんだ。
胸が痛んだ。二人がキスをしていた事実より、隠されていたことに傷ついた。
歩美を気遣っているのだろうか。だけど、今でもきっとコナンを想う歩美のためにも、その秘密はあまりにも残酷だ。
なんとなく五人で集まるのを敬遠していたのかもしれない。
一人で図書館で勉強していると、ノートがなくなったので、購買に行った放課後、偶然哀にばったり出くわした。
「あら…」
「灰原さんも何か買いに来たんですか?」
「ええ。シャーペンの芯を切らしてしまって」
同年代の女子より少しだけ低くて落ち着いた声は、光彦の心を和ませる。
受験の話をしながら、二人並んで校舎へと歩いた。
隣を歩く彼女の横顔を盗み見る。一時期彼女に憧れていたという事実は、誰に言えない。光彦の奥底に閉じ込めた秘密だ。