工藤新一様
拝啓
突然私がいなくなったことをあなたは気に病むかもしれませんね。
ごめんなさい。そしてありがとう。
いつまでも彼女とお幸せに。
かしこ
追伸、時々はホームズ以外の探偵も愛してあげて。
宮野志保
蘭がその手紙を発見したのは、秋の柔らかい日差しが射し込んだ新一の家のリビングを掃除していた時だった。
大学に通いながら探偵業を営む彼とはもう一週間会っていない。だけどそれは日常茶飯事のことで気に留めることもなかった。こうして時々掃除をする為に合鍵を使って新一の家に入ることも、幼い頃からの付き合いもあって新一も特に気にしていないようだった。
ただ、その日は珍しく書斎からリビングにかけて床の上が本で散乱していた。書斎の机の上が散らかっていることはあっても、リビングにまで本に場所を占領されたら困る。広げられた本を拾い上げ、せめて本棚の傍の床の上に重ねていく。
問題のそれは、その本達の隙間から姿を見せた。
―――工藤新一様
達筆ではないけれど下手でもない、女性らしい文字が書かれた白い封筒。その封筒をひっくり返せば、
―――宮野志保
聞き覚えのない名前がそこにひっそりと書かれていた。
既に破って開けられた封から、蘭はしゃがみ込んだまま震えた手で思わず便箋を取り出した。一瞬それから目を逸らす。しかしいてもたってもいられず、いけないと思いつつもその内容に目を通してしまった。
新一は探偵の癖に嘘をつくのが下手だ。そして新一の誠実さを蘭は知っているつもりだ。だからきっと世の中の女子が疑うような状況ではないのだろう。
だけど、自分との幸せを願うと書かれた三行の内容と新一の趣味をよく知る追伸に、蘭は動揺した。
この日を境に、新一の様子がどこかおかしく見えたのは気のせいではないだろう。