②5-1



 同じ未来を眺める事で、初めて心を重ねる事ができる。



I carry your heart with me



以下、女子高生向けファッション誌『GIRLSTEEN』10月号より抜粋。

 ――さて現在は大学生活と並行しながら俳優業を再会された工藤新一さん、今回二時間ドラマ『ジュリア』で、生徒会長役を演じられましたが、オファーがあった時、どんな心境でしたか?

「ああ、まだ男子高校生役をやらせてもらえるんだなって(笑)」

 ――学ラン、とてもお似合いでしたよ。今回は謎多き生徒会長ということで、ドラマをご覧になる方の反応はいかがだと思いますか?

「どうなんだろう。多分嫌われるんじゃないかな。主人公無視してジュリア様と親密アピールしてるし」

 ――(一同笑)そのジュリア様と呼ばれる学園アイドル的な女の子の幼馴染役ですね。

「そうです。学園アイドルって呼び方がまさに時代錯誤感満載なんですけれど、それもこのドラマのいいところだと思うんですよね」

 ――工藤さんは仕事をセーブしながら受験を越えて現在大学生活を満喫されていらっしゃると思うのですが、やはり大学生活は高校生の頃とは違いますか?

「全然違います。俺が通っていた高校は自宅から近かったので、徒歩通学だったんですよ。でも、今は電車で通っているので、すごく普通っぽいなって思ってて」

 ――工藤さんが電車通学ですか?

「そうなんです。恥ずかしながら俺、この歳まで電車を一人で乗った事がなかったんですよ。遠征で新幹線は乗ったけれど、マネージャーも一緒だったし。あと、高校は芸能科だったから背筋が伸びていた感じがあったんだけど、大学は芸能人じゃない人の方が多いから、気が楽というか」

 ――今の方が気が楽ですか? 普通は逆のような気がしますが。

「もちろん入学したばかりの頃は声をかけられたりしたんですが、俺、すごいだらしない格好で校内を歩いているんで(笑)同じ大学に通っている服部(平次)なんかは今でも声をかけられているのを目撃しますが、俺は全然です。高校の頃よりも、素の自分でいられる環境なのかな、そういう意味で気が楽なんです」

 ――それはやはり、高校と大学の違いでしょうか。それ以外に思い当たる理由はありますか?

「すごい突っ込んだ質問をしますね(笑)うーん、どうだろう。まぁ環境の変化は何も学校だけじゃないと思うんで。もちろん仕事の上でも、さまざまな経験を通して、より自分に向き合える環境を得られていると思います」



 車内の空調の温度を二度だけ上げた。いつの間にか夜はクーラーのいらない季節になっていた。

「新ちゃん、『GIRLSTEEN』読んだ? 新ちゃんのインタビューが載ってる」

 運転席で有希子がおかしそうにつぶやいた。新一は窓枠に肩肘をつきながら外を眺める。サイドミラーには後車のミラーが眩しく光っている。

「ああ、読んだ」
「新ちゃんってば、インタビュアーの趣旨を思い切りかわしたわねぇ」
「今更だろ? なんでああいう記事って、俺のプライベートに寄っていくわけ? ジュリア様の話題はどこに行ったんだよ?」
「みんな新ちゃんに興味津々なのよ」

 からからと笑いながら、有希子が明るく言い放つ。『アクトナビ』の佐藤さんだったらもっといいインタビューをしてくれただろうになぁ、とひとりごちながら、新一は前髪を掻きあげる。今日は久しぶりに中高生向けのアイドル雑誌の撮影とインタビューだった事もあって、いつもよりも肩に力が入っていたのか、ドラマ撮影の時とは別の疲労感が身体を襲っていた。

「今日は『ジュリア』の放送日よね。黒羽君とこのブルーパロットで降ろしたらいいのかしら?」
「ああ、黒羽に呼ばれてるんだ。どうせドラマ見ながら冷やかしをうけるのが目に見えるぜ」
「志保ちゃんは?」

 突然放たれた固有名詞に、新一は有希子を向く。

「え……?」
「あなたから全っ然志保ちゃんの名前を聞かないけれど、会わなくて大丈夫なの?」

 志保とホテルで密会してから二か月が経っていた。お互い忙しい身で会える日はすくないけれど、彼女が新一の部屋に訪れたのが一度、そして新一が志保の部屋に行ったのも一度、世間の目から隠れるようにして二人で過ごした。

「俺が出ているドラマをあいつと見るのはちょっと……」

 演技力で叶わない彼女と、自分が出演しているドラマを見るのは少し複雑でもある。志保とは恋人になったところで、仕事の上では性別は違ってもライバルに近いのかもしれない。一方的かもしれないけれど。
 新一が答えると、有希子はやはり柔らかく笑った。志保とのあれこれを有希子に話した事はないが、気付かれていてもおかしくない。彼女は新一の母親なのだ。



 ブルーパロットの前で車から降りて、ドアを開けると、黒羽の親戚でもある寺井に迎えられた。自分の家ではないのに、ここは自分にとっての居場所の一つだ。どんなに久しぶりに来ようと、ほっと胸を撫で下ろしたくなる。

「よぉ工藤、お疲れ様!」

 カウンターに座っていた黒羽が軽快に新一を迎え入れる。懐かしいコーヒーの香りに安堵したのもつかの間、奥のテーブル席に座っていた姿を見て、新一は盛大にため息をついた。

「ちょっと待って……、なんで志保がいるんだ?」

 頭を抱える新一に、テーブルに肩肘ついた志保が面白そうに笑う。

「あら、私がいたら邪魔だったかしら?」

 勝気な目で新一に笑う志保に、新一はうなだれた。新一が出演しているドラマ『ジュリア』の放送時間まで、あと三分。