悪い夢を見ていた気がする。肌寒さに哀は目を覚ました。
隣を見ると、歩美がより幼い顔をして眠っている。それにほっとして、身体を起こし、枕元に畳んであるカーディガンを羽織った。
物音を立てないようにそっとテントの外に出ると、思った以上に月の光が景色を照らしている。
空気はとても澄んでいて、虫の鳴き声がクリアに聞こえる。都会では耳触りなそれは、ここでは落ち着かせてくれた。
夏休み、今年もいつもの仲間でキャンプに来て、中学生にもなってカブトムシ狩りに付き合わされ、カレー作りを任され、程よく疲労した一日だったのに、なぜか目が冴えている。
「灰原?」
草を踏む音がしたと思ったら、男子が眠るテントの近くに、コナンが立っていた。
「…江戸川君。こんな時間に何しているの」
「おまえこそ」
哀はそっとコナンに近付く。足音を立てないようにしても、地面は柔らかく、音は消えない。草の緑臭さが鼻につくけれど、不思議と嫌ではない。
月明かりに照らされたコナンは、トレードマークの眼鏡をかけていなくて、いつもより幼く見えた。
年齢を重ねるたびに少しずつ元の姿に近付いていくその容姿は、確かに整っていて、学校の女子が騒ぐのも分かる気がした。
「星が綺麗ね」
哀は空を見上げる。雲ひとつない空には、都会では考えられないほどの星がまたたいている。
夜空がこんなに明るいものだと知らなかった。
コナンは星のようだ、と哀は思う。
真っ黒に染まった自分に光をくれた。
これ以上、何を求めようというのだろう。
「今年も来ることが出来てよかったな」
同じように夜空を仰いでいるコナンが、ふとつぶやいた。「え?」と哀が聞き返すと、コナンは哀を見つめた。
「キャンプに来られてよかった」
彼が何を思ってそう言ったのか分からない。
出会ったときからずっと一緒に生きてきて、居心地のよさに甘えていた。適応力のある彼は、いつか自分を離れてしまっても仕方がない。そう思って来たけれど。
期待してしまう。
「…そうね」
夜空には不思議な作用がある。これまで隠していた気持ちが吐露してしまいそうだった。それでも、今は怖くない。
哀がまっすぐコナンを見つめると、コナンは柔らかく微笑んで哀の手を取った。
冷えた空気の中、その温度はとても心地よくて、ぎゅっと握りしめる。
そして再び、空を見上げた。
都合よく星が流れることはないけれど、星に願いを。未来に光を願う。
タイトルは菅崎茜の曲から頂きました。
(2014.7.19)