花火は色を変える


 二度目の人生を辿っているので、成長過程で訪れる事象に対して、驚いたり揺るいだりすることはないと思っていた。
 だから、低学年の頃に比べてクラス内のグループが男女くっきり別れたりだとか、単に近所だとか出席番号が近いという理由で出来上がっていたそれらのグループがファッションの雰囲気や好きな芸能人など目に見えないラインによって再構築されていく様子に対しても、十年前もそうだったかもしれないな、とコナンは懐かしい気持ちでその光景を眺めていた。おそらく十年目の自分の周囲にはサッカーが好きな男子が集まっていたはずだし、そこに馴染む自分に満足を覚えていた。
 好きなものが別に存在しても心がまっすぐに動かない葛藤は、遠い記憶だ。

「元太君はコドモなんですよ」

 同い年でかつ二度目の人生を迎えたわけでもないはずの光彦が、やけに悟ったように言い放った。
 体育の時間、同じクラスの光彦とペアを組んで柔軟体操を行う。コナンの背中を軽く押している光彦に、コナンは訊ねた。

「あの二人に何があったか知っているのか?」
「どうせ元太君が、歩美ちゃんの可愛さに耐えらえなくなっただけですよ。そんな態度を取られたら歩美ちゃんだって面白くないに決まっています」
「そういうおまえはどうなんだよ?」

 運動場の砂の上で足を伸ばしたまま前屈した体勢でさらに質問を重ねた途端、

「痛ててて!」

 あらゆる筋肉の悲鳴に従うように、思わずコナンは声をあげた。同じように柔軟体操を行っていたクラスメイト達が何事かと振り返る。
 コナンの背中を押す光彦の力が急激に強まったのだ。

「なにすんだよ、光彦」

 抗議の声と共に光彦を肩越しに睨みつけると、光彦は涼しい顔で笑った。

「コナン君こそ、最近はどうなんですか?」
「何がだよ?」
「気付いてましたか? 向こうのコートの人達、灰原さんのクラスですよ」

 光彦の視線の方向へと目を向けると、そこではドッヂボールが行われていた。これまで哀のクラスと体育の時間が重なる事はなかったが、先日まで悪天候が続いていたので、振替の授業なのかもしれない。
 たった数か月前までは、クラスは一つの個体として存在していたはずだった。右に倣えの法則のように、同じような背格好で性別なども関係なくすごしていたはずだったのに、遠目で見ても哀のクラスも自分のクラスと同じような男女がくっきりと分かれているようだった。白と紺色の同じ体操服を着ているはずなのに、その違いが可視化されている。
 柔軟体操の時間が終わり、担任の号令に従ってコナンと光彦は立ち上がった。
 秋の風が担任の前に並んだクラスメイト達の隙間を流れていく。半袖からはみ出た腕が、少々寒い。
 グラウンドの端から甲高い声が聞こえ、コナンはそっと振り返った。体操服を着た女の子達がひとつのボールに翻弄されている。そこには哀の姿もあり、コナンは生唾を飲み込んだ。
 江戸川君、と担任が呼ぶ。

「ちゃんと前を向きなさい」

 叱られた自分にクラスメイトの女子達がくすくすと笑っているのを横目に、コナンは口先で担任に謝り、それでも意識は離れた場所のドッチボールのコートに釘付けだった。そして、小さな衝撃を受けていた。
 自分と同じデザインの体側服を着ている哀のいる場所が、見えないラインで隔てられている気がしたのだ。