連続殺人事件だった。関西某所にある大病院で働いていた、医師を含める医療関係者四人が被害にあった事件でもあるが、医療弱者を守ろうとするマスコミの思惑が働いているのか、そこまで大きく報道されているわけではないようだ。
服部と電話をした二日後、二月始めの土曜日。新幹線に乗って駅に降り立った新一を、服部は歓迎してくれた。きっと痩せ細って顔色も悪い新一に対して、驚かなかったはずがない。それでも、昔と同じように服部は刑事に新一を紹介し、事件内容について話をしてくれた。
久しぶりの感覚に、新一は血が全身に行き渡るのを感じていた。ぞくぞくと背筋を震わせるような快感に、心臓が高鳴る。世界がこんなにも広かった事を改めて知る。
「医療関係者が次々っていうと、動機が重要だよな」
ある貸会議室でテーブルに広げた資料を一つ一つ確認しながら新一が言うと、服部は満足そうにうなずいた。
「それがな。もちろん警察は同僚や患者を調べた。同僚の間に揉め事はなかったか、そして、医療ミスをされた患者の有無についてや」
四人目の事件が起こってから五日が経とうとしていた。始めは被害者同士の関連性の有無についても警察は可能性を引き出していただろう。時間がかかっているのが問題だ。
「訴訟が起きるほどの医療ミスは過去にあらへん病院やった。他にも病院に恨みを持つ人物を洗い出しているけど……」
「つまり、医療ミスが動機っていう線は消去されるのか」
殺されたスタッフは医師一人、看護師二人、理学療法士が一人だ。新一は手に持った資料にあった、病院勤務者一覧を見て違和感を覚えた。病床数の多い大病院にしてはやけにスタッフの人数が少ないように見えた。
「服部、事件発生前の数か月間での退職したスタッフの資料はあるか?」
「ああ、それならこっちにあるで」
服部から一枚の用紙を受け取り、新一は再び口を開く。
「サンキュ。あと、スタッフの勤務管理表ってあるか?」
新一の問いに、服部は目を見開き、少々考え込んだようでから、スマートフォンを取り出して知り合いの刑事に連絡を取った。
病院スタッフのアリバイももちろん既に洗い出しているようだ。病院勤務者こそ、過労働の中に四日間もアリバイのない人間は皆無だ。現在、警察はここ一年の間に退職したスタッフについて調べているという。
今となっては探偵でもない新一と、新任の警察官である服部ができることなど少ない。また刑事からの新たな情報が入り次第連絡をするという服部と別れ、新一はホテルへと向かった。
駅近くに予約していたビジネスホテルの部屋で、新一は改めて資料を見直した。服部から届いた勤務管理表を見比べて、違和感の正体を知った。
医師をはじめとし、スタッフのほとんどの職種で人不足による過労働が蔓延っていた。新一は資料の中で気づいた点を備え付けのメモ帳に走り書きでまとめていく。明日、服部は勤務だという。もちろん新一の持つ時間は有り余っている。
明日の捜査の目星をつけ、新一は資料を机に放り、ベッドに横になった。ほどよい疲労感が身体を襲うのに、やはり眠る事は難しかった。